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「● 勇次と隼☆番外編」
俺たちのままで

俺たちのままで 19

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脚本家の櫻井との打ち合わせで、仕事場を訪れる。

「悪いね、ここまで足運んでもらって。もうホント、時間無くて」

仕事部屋にこもって自宅に帰れず、離婚寸前……との噂を聞いた。

「上杉さんからも、さっき連絡あったよ。良い脚本と、良い曲をよろしくって」
「ガンガン、プレッシャーかけてきますね」
「勇次でもプレッシャー感じる?」
「それなりに」
「それなりかよ。さすが」

ソファーの周りには脱ぎ捨てた服や書類が散乱している。
それをごっそりと抱え込むようにして、下に置いた。

「ヤバイだろ、部屋」
「散らかってますね」

そこは建前くらい言えよ……と、櫻井が笑う。

「整理整頓がどーも、苦手で。片付けても、すぐにコレ」
「俺もですよ」

仕事場と言っても、普段は櫻井一人で黙々と仕事をしているらしい。
本人曰く、元々引きこもりで、人の出入りがあると集中出来ないタイプなのだと言っていた。

まだ売れる前は家で仕事をしていたが、昼夜逆転することも多いため仕事部屋を構えたと話す。

「家、帰ってないんだよなぁ……」

ボソッと顔を歪めて苦笑い。

「どれくらい?」
「う~ん……。分かんないくらい」

噂の出所は、こういうちょっとしたボヤキだろうな。

「勇次はちゃんと家帰ってんの?」
「帰ってますよ」
「スタジオにこもってんのかと思った」
「そういう時もありますけど、自宅の部屋でも作れるように整えたんで」

話をしながらガサゴソとテーブルの上を片して行くが、あまり片付かない。

家も、隼が居なかったらどんな部屋になってるんだろう。

一緒に暮らす前は、家には寝に帰るだけだったしな。
部屋で飯を食うのも隼が来る時くらいで、適当に外で食ってたし。

今、俺にとっての家とは、快適で、温かな飯や風呂。
そして、隼。

ほとんどすれ違いで寝顔しか見ることが出来なくても、週に二回くらいは一緒に飯を食って、たまに休みが合ったら部屋でくつろいで。

勇次は、ボーっと隼との暮らしを浮かべる。

あぁ……幸せって、こういうことだよな。





「考えたらさ。勇次は独身だし、俺も家庭人とは言えないのに、ファミリー向けのドラマ作るって」

片付けている櫻井が声をかけてくるまで、勇次の思考は飛んでいた。

「櫻井さん、ちょっと待って」

カバンからノートを取り出して、さっきの幸せ……のフレーズで浮かんだことを、書き留める。

その間、櫻井は何も言わず放置してくれていた。




ふぅ……と一息つくと、コトリと目の前にコーヒーカップを差し出される。

「何か浮かんだ?」
「幸せのフレーズ」

勇次の言葉に、櫻井が目を輝かす。

「幸せ、か。シンプルだな」

ニンマリとした櫻井に、勇次がモバイルを取り出した。

*

打ち合わせの後、事務所へ戻る途中で携帯が鳴る。
見れば櫻井だ。何か変更なのかと車を一旦止めて、電話に出た。

『歌詞なんだけど、入れてほしいフレーズ思いついて』

いきなりの大きな声に、携帯から耳を離す。


『あの曲いいよー。あれで、イメージが頭に流れてきて……』

櫻井が興奮していて口を挟めず、相槌を打ちながら聞く。

曲といっても、もちろんまだ途中だ。
バンドの時とは違って、万人受けする曲。
所謂、四七抜き音階で作ったメロディーラインを櫻井が気に入っただけで、歌詞などは今からだ。

櫻井の言葉を助手席に置いてあった紙に走り書きで、書き留める。

『ゴメン。なんか興奮しちゃって。メールでも良かったんだけど』

ひとしきりイメージを話した後で、そう言って笑う。

「分かりますよ。俺もそういう時、ありますから」

閃き、降りて来た、湧き出てきた……色んな表現はあるが、興奮して、その次に忘れてしまわないように焦る。
その場にあるモノに書き留め、そこから夢中になって自分の世界に入り込んでしまうのだ。

『勇次が帰ってから、さっきのシンプルな幸せについて考えてて、娘の小さい時を思い出したんだ。公園に連れて行ったりしてた頃の顔とかね』

まだ売れてなかった頃は嫁さんが外に働きに出て、自分が家で仕事をしながら子育てをしていた時期があったのだそうだ。

『世界で一番パパが好き、なんて言ってくれてさ。もう今じゃ、汚いとか言われてるし……、一体何番目まで落ちたんだろ。てか、嫌われてたら泣きそうだよ』

はは……と自嘲気味に笑う櫻井。

「それ、使わせてもらいます」

しばらく話しをしてから電話を切り、書きなぐった櫻井の言葉に印をつけながら、メロディーを浮かべる。




「こんにちは」

声がして、顔を上げると警察官が居た。

「はい」
「ここ駐車禁止なので、車動かしてもらえますか」

……すっかり没頭していた。
今から事務所に戻って……とは思うが、今の流れを止めたくない。

「すいません。この近くにパーキングありますか」
「あの信号を左折してそのまま走れば、コインパーキングがありますよ」
「有難う御座います」

車を走らせると、コインパーキングはすぐに見つかった。

空いているところに止めると、隣でスーツ姿のサラリーマンらしき人が車の中で寝ていた。

勇次は周りを見渡し、ナビで検索する。
この近辺に大きな公園があるようだから、車を降りた。

*

公園は人が程よく居て、木陰のベンチも空いている。
土曜日だからか父親らしき人もいて、さっきの櫻井の言葉を思い出した。

座ってノートとタブレットを取り出して、さっきの続きに没頭する。

時々子供たちを眺めながら、ノートに走り書きをしてはタブレットで音を刻み、曲を作る。



どれくらいそうしていたのか。
気付くと、陽はさっきより随分と傾いていた。

タブレットで時間を見れば、午後の四時半。

ふぅ……と、ベンチの背にもたれて空を見上げる。



喉が渇いた……。

自動販売機がないかと見れば、昔懐かしいアイスクリーム屋が公園の隅に居るのが目に入り、子供たちが数人並んでいる。

あれ、昔もあったよな。
隼が食べたがっていたのも同時に思い出す。

家に帰ってお金を貰って、走って公園に戻って買った。
さぁ食べようと思ったら、隼のアイスクリームの上の部分がボトッと落ちてコーンだけになった。
グズグズ泣きだすから自分の食べかけの方をやって、俺はコーンだけになった隼のをバリバリと食べたんだっけ……。

くくく……と笑えてきて、口を覆う。

俺は昔から、あいつの泣き顔にとことん弱いんだ。


勇次は立ち上がり、子供の後ろに並んで一つ買った。


ベンチでコーンに乗ったアイスクリームに噛り付く。

美味い……。


ボーッと食べていたら、幼稚園くらいの男の子が目の前に立った。



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