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「● 勇次と隼☆番外編」
俺たちのままで

俺たちのままで 2

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程よく緊張感が抜けて、生徒達も親しみのこもった顔つきになった。

「生活のそこかしこに物理は溢れてる」

「じゃ、生活してて役に立つってこと?」
「いや、そういうことじゃない。何気なく身の回りで起きていたことに理由があって、それに納得できる。知的好奇心を満たしてくれる、面白い学問ってことだ」

深い分野だけに、たくさんの基礎を学ばないと前に進めない、と続ける。

「家の電子レンジ、お母さんの使ってる圧力鍋、こどもの日に泳ぐこいのぼり、飛行機に乗った時のポテトチップスの袋が膨らむ現象……」

隼が日常にあるモノを言葉に出して行けば、教科書とは関係のない話だからか生徒たちの目が興味を持つ。

「自然の摂理を描いて、数学で計算して行く。疑問点の点と線を繋げて行けば、答えが見えてくるんだ」

黒板の空いている場所に、ポテトチップスの袋が膨らむ現象の図を描いて計算式を書く。

「スゲー」
「人が生きている中の、自然の法則だ。大学時代、宇宙の設計図を見てるような感覚っていうヤツもいた」

宇宙の設計図、に反応する。

「今住んでる家だって、元はといえば何もないところから設計図を基に建ててるだろ? 素材、大気、流体なんかの力学、機械、電気・電子なんかを駆使して設計し、数字を立体化して起こして行けば、家になる」

難しい言葉の後に易しい言葉を使って、緊張と弛緩を繰り返し興味を惹かせる。

次に、泳ぐこいのぼり……と、いくつかの例をあげ、数学と物理の関係性を思いつく限り日常にあるモノで例を出していく。

「ネギっち、そんな風に教えてくれへん」

「アホか」

隼が大阪弁で笑えば、皆の目が瞬く。

「学校の勉強にはちゃんとカリキュラムがあるんだよ。それに乗っ取って授業進めなきゃならない。こんな脱線した話する時間なんかない現状くらい、高校生になったら理解しろ」

勉強の面白さを伝える。
教師なら、誰もが幾度だって考えることだろう。

だが、現実はカリキュラムをこなして行くのに必死だ。

「物理はとにかく分野が広い。今、スマホで検索してみろ」

隼に言われれば、生徒が素直に携帯を取り出して検索を始めた。

「ニュートン流体?」
「リンゴ?!」

ガヤガヤとスマホを照らし合わせている生徒たちを見ながら黒板の文字を消し、新たな図を描いた。

「水平に一直線のこれがηDカーブ。ずり速度により粘度が変わらない流体が、ニュートン流体だ。非ニュートン流体ってのもあって、マヨネーズやマーガリンはこっちだな」

「ずり速度? そっからわからん」
「非って? 反対ってこと?」

難しいとブーブーと文句を言う生徒たちに、そうだろうよ……と小さく笑う。

「知りたくないか?」

そう声をかければ、知りたいと答える。

「意味が理解出来た時の、自分を想像してみろ?」

顎を上げて、ニッと生徒たちに微笑んだ。

「最高に、気持ちいいぞ」



「……先生、カッケー!!」

キラキラだなぁ……おい。

単純で、可愛い。

「何だっていい。まずは、興味を持つこと。そこから、知りたいって欲求が生まれる。学ぶことの魅力に取り憑かれるのも悪くない」

「学ぶことに取り憑かれるって!!」
「取り憑かれてぇ~~」

「高校で習う物理は、基本だ。お前らはまだ一年生で、スタートラインに立ってるのと同じ。今ちゃんとやるかやらないかで、大きく変わる」

耳にタコができるほど言われている言葉だろうが、本当のことだ。

「大学に行った時に、それが分かる」

「センセーー!大学、どこ?」

「S大」
「……もしかして、理工学部?」

従兄がそこに行ってるのだと言う。

「ビンゴ」

その途端、また騒ぎ出した。

***

事務所に戻ると、他のスタッフと共に別の車に乗っていた黒井が先に着いていた。

「お疲れ様です」
「お疲れ様。もう、来年のオファーが来てるわよ」
「さっきメール確認しました」

海外ツアーは、リスキーだ。
費用だけでなく、移動するだけで時間を要する。

だが需要があって採算が取れるのなら、行くこと自体に意義がある。
何より自分達への刺激にもなるからだ。

今回は向こうの女性若手アーティストのクロエと共に、曲も作ってきた。
ライブにも参加してもらい、それだけでかなりの反響を呼んだ。

日本のアーティストの海外ツアーは、現地の日本人と、追いかけてきてくれるファンも多い。

だが今はネットを繋げれば動画などで世界中で気軽に観ることが出来るし、SNSで拡散もしてくれる時代だ。
海外での知名度の方が日本より高いアーティストも居る。

日本人に世界レベルの音楽など通用しないとされてきた時代。
もちろんそれを否定は出来ないが、今の時代は受け入れる側も多種多様だ。

「まぁ、一か月ぶりに帰ってきたんだし。明後日まで事後処理あるけど、その後は羽伸ばして。それと、後で秋也にこっちに寄るように言ってくれる?」
「了解です」



書類を持ってスタジオの階に降り立ち、メンバーに渡せば、慣れたモノで黙々とサインしていく。

「秋也、後で黒井さんが来てくれって」
「分かった」

モデルの方の仕事だろう。

ツアーからツアーの合間に、集中してモデル業。
どうしてもツアー中に痩せてしまう体型を維持し、そこから更に創り上げて行くのだ。



「ちーす! お帰りなさいー」

声がしてみれば、ダンスユニット「Dive」のメインボーカル担当の譲(ユズル)だ。

「レコーディング?」
「そう。まぁ、明日が本録りだけどね」

同年代だから、気安い。

「健太郎……。どーやったら、お前みたいに歌えんのぉ……」

譲は毎回、コレだ。

「努力のみ」

健太郎がそう答えれば、顔を歪める。
努力したって、どうしても出ない音域があるし、そもそも踊りながらインカムマイクで歌う譲と健太郎とは違う。

「歌姫のクロエと同等に張り合ったって聞いたよ」

後ろからリーダーの樹(タツル)が顔を出した。

「そりゃ、うちの健太郎だもん」

秋也の言葉で、健太郎が嬉しそうな顔だ。


そこで携帯が震え、表示を見て顔が綻びながら廊下に出てから携帯に出る。

『もしもーし。お帰り』
「ただいま。大阪かよっ」
『そーだよ』

そこへDiveの一人、克志(カツシ)が自分のメンバーを呼びに来て、それぞれに勇次に頭を下げて去って行った。

「戻るのは明後日か?」
『あぁ。伯母さんのとこに顔出すから』
「早く帰って来い」
『おぅ』

電話を切って、ふぅ……と一息。

俺も明後日まで仕事残ってて、その後バンドの方はしばらく休みだ。
まぁ、曲作りや打ち合わせなんかはあるけど。


一か月、顔見てない。


普段からベタベタとする方ではないが、さすがに顔を見たいし、触って匂いを嗅いで……。


「お疲れ様です。お帰りなさい」

勇次が廊下にもたれて隼のことを考えていると、声がした。

「お前か」
「何で嫌そうな顔するんですか」
「別に」

三村が首を傾げながら部屋を覗くと、とたんに「しんじっ」と声がした。


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