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「●冬吾と澪☆番外編」
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「真柴。Tビルの案件どうなってる」

デスクの向こうから向井主任に声をかけられ、澪は準備していた書類を持ってデスク前に行った。

「担当の日村さんが、コムデの方に交渉してほしいと」

向井が書類をパラパラと見ながら数字を指で追っている。

「この坪数だったら、大手を一件出した方が効率がいいってことか」
「家賃の方は出来高でいいと言うんですが」
「強引だな……。けど、そうしないと埋まらないし、集客見込みか」

大手を引っ張ってきて、集客を狙う。
よってビル自体に人が足を運び、売り上げも上がるという算段。

人気の落ちた商業ビルは、店子の確保に必死だ。
店舗に穴を空けるのだけは、どうしても避けたい。
ビルに集客がないと売上が取れず、契約が切れた途端に出て行き、悪循環。

そこをどう埋めていくのかが、リーシングの難しさ。

「けど、この坪じゃ人件費がかかる」
「はい」

いくら家賃が安価でも、必要経費はそのままかかる。

「日村さんが、直接主任と話をしたいそうです」

やっぱりいざとなると、自分では力不足だと痛感させられる。
まだ今は、伝書バトのような役割でしかない。

「Bビルのようになるのを避けたいって言ってたろ」
「はい。頭を抱えてました」

ファッションビルが、今じゃ飲食ビルへと変貌したBビル。
駅の反対側に新たな商業ビルが建ってから集客が減り、店子が入らず、苦肉の策に大手飲食チェーン店で埋めた。

澪の調べた数字を、細かい部分まで目で追う主任の答えを待つ。

「分かった。うん、よく調べてあるな」
「有難う御座います」
「とりあえず日村さんとアポ取るから、真柴は補佐に付け」
「はい」

書類を見ながら頷かれ、澪が自分のデスクに戻ろうと背を向けた。

「あ、そうだ真柴。お前、春から三年目に入るだろ?」
「はい」
「宅建の主任者取ってこい」
「はいっ」

やった……。
手続きに時間やお金もかかるけど、名刺にも刷れるし資格手当も付く。

前で小さくガッツポーズをしていると、佐野と目が合った。

こっそりと中指を立てられて、クッと笑う。
佐野は前回の試験に落ちたからだ。

不動産業だとほとんどの人が持っているが、リーシングではまだ少ない。

「嬉しそうな顔しちゃって」

デスクに戻ると、隣の山本がニタニタして言ってきた。

「嬉しいですよ」
「あんたがいたら重事項も契約書も、人借りなくてオッケーになるんだね」
「そうです」
「凄いぞ、真柴」

先輩の山本は、普段はクソミソだけど時々本気で褒めてくれる。

「私も宅建取ろうかな~」
「頑張って下さい」
「俺にも言えよ」

横から佐野が突っ込んで来る。

「佐野さんも」
「何だ、そのついでみたいな言い方」

「佐野!!」

今度は佐野が主任に呼ばれ、ビクッと首をすくめて書類を持って立ち上がった。

*

冬吾が社食で遅いランチを食べていると、隣に朱山が座った。

「よっ。納期に追われて、今ごろランチか?」
「そう。交代で食べに来てる」
「まぁ、俺も同じようなもんだけど。……あっ」

朱山が声を上げたから、その視線を辿ると鹿島専務が赤ん坊を抱いて入って来た。

「この間生まれた専務の息子だ」

そうだ。
専務の長男が生まれた時、会社で祝い酒が振る舞われた。
まるでお祭りのように、会社の空気が盛り上がった。

特に立場が上の人ほど、凄い喜びようだった。


ピーク時間を過ぎた食堂に息子を抱いて入って来た専務は、厨房の中に入って行く。
どうやら、食堂の人達に息子を見せにきたようだ。

一通り顔見せした後は、食堂に居た社員のそれぞれに声をかけていく。

皆、食べている手を止めて立ち上がって頭を下げ、緊張の面持ちだ。



「あの子が、俺達の未来を担ってるんだな」

冬吾が、まだ生まれて間もないとも言える小さな子供を見ながらポツリ。

「うん……。その頃には、俺たちも重役?」

朱山がニッと笑っていると、次に専務がこっちに来た。

「食事中にすまないね」

二人でガタッと立ち上がって、頭を下げる。

「座ったままでいい。長男の陵(リョウ)だ。といっても、まだ小さ過ぎてちゃんと挨拶も出来なくて申し訳ない」
「いいえ」
「いずれ君達と一緒に働く日が来るかもしれない。その時は、色々と教えてやってくれると有難い」
「はいっ」

座っていいと言われても、立ったままで背筋を伸ばす。
目の前の子供の顔など、まともに見ることも出来ない。

「もう少し大きくなったら、各部署に改めて挨拶に行くから」
「はい」

今日は、子供の頃から世話になっている社食責任者の人との約束で見せにきたのだと苦笑いをした。

あぁ……多分、三月で定年になる森さんのことだ。
社員食堂を今の形に変えた、第一人者だと聞いた。

「邪魔をしたね」
「いいえっ」
「ありがとう」

頭を下げられて恐縮している間に、専務はニッコリと微笑んで向こうへと行った。

「はー、緊張した」
「俺も」
「専務に似てた?」
「多分……」
「多分って」
「緊張してそこまで見れないし、まだ小さすぎて」

そのまま、また二人で箸を持って食べ始めた。

「あの小さな赤ん坊が、次の次の社長かぁ……」
「うん」
「専務も物心つく前から、あぁやって連れてこられてたって。うちの部長が酒の席で言ってた」
「帝王学ってやつだよな」

あんなにまだ小さな時から、もう既にこの会社を背負うための教育をされて行くのか……。

「あの子が大学出た頃には、俺ら四十代半ば過ぎか」
「さっき、自分で重役とか言ってたっけ」

冬吾が笑うと、朱山も笑う。

「二十年も先なんてさ、どうなってんだろ」
「うん。けど、あの子の成長見る度に年月を感じて、自分を鑑みるんじゃないか?」

多分、今の幹部クラスの人たちもそんな風に思ったのかもしれない。

「なるほどー。俺たちが後ろにいます! だな」

朱山の言葉に、本当にそうだと思った。
この会社にずっと居ると仮定しての話だけど、子供の成長と共に自分達の立場も変わって行くだろう。

頑張っても報われないことや、反対にグンと伸びるようなこともあるかもしれない。

今はまだ、会社にとっては大した戦力とは言えない自分達。

いつか専務の息子がこの会社に入る時。
その後ろでしっかりと、足場を守れるようになりたいと思う。


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