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「●北見と佐倉☆番外編」
隣にいてくれ
隣にいてくれ 22
「もう最高」
北見が子供のように喜んで、目をギュッと閉じる。
「そんなに美味いか?」
「いや、もう想像以上」
「どうせろくなもん食ってなかったんだろ」
忙しくなると自炊なんかする気もおきないだろうし、腹を満たすためだめの食事。
コンビニ飯や牛丼や、ラーメン。よくて居酒屋あたり。
俺だって仕事以外のプライベートじゃ、同じだ。
「佐倉さんは、接待で美味いもん食べますもんね」
「まーな」
接待でそれなりの店に行くことはある。
けどさ。
こんな風に好きな相手が喜んでくれたら、美味さは何倍にも感じられる。
お前が食べたいモノなら、どこでも連れて行ってやりたいよ。
「金出したら美味い店なんかいくらでもあるだろうけど、これくらいの値段でこのレベルはそうそうないな」
「月一で来たい」
「そんなに気に入ったか?」
コクコクと頷いて、肉を頬張る。
……可愛いな、こいつ。
佐倉はつい口元がニヤけてしまう。
「幸せです」
「単純だな」
「佐倉さんと一緒だし」
ま~た、そういうことをサラッと……。
「あ、そう」
「冷たい」
あはは、と笑って佐倉も肉を頬張る。
「この赤出汁の味噌汁も、肉に合う」
「うん、美味い」
「肉、追加しようかな」
「足りないか。その体じゃ」
*
あまりに美味くて、北見はカツをもう一枚追加した。
肉のレベルはさすがに最高ランクとは言えないだろうけど、外の衣は薄いのにサクサクで中の肉は半分レア。
柔らかく肉厚で、ソースなどではなくあっさりと塩で食べる。
「そんなにガッつく程、飢えてたのか」
「このところ、生きるためだけに食ってたんで」
なんだそれ、と佐倉が笑う。
「さすがにクタクタで飯作る暇も無いよな」
「ですね。今日はお兄さんの行きつけっていうから、構えてたんですけど」
何をだと問われ、もっと敷居の高い店だと思っていたと答えた。
「兄貴だって、家のローン抱えて子供二人だ。外資でそこそこ給料も良いみたいだけど、財布は義姉さんに握られてる身だ」
「あー、そうか……」
「義姉さんもまだ育児休暇から完全には抜けてないとはいえ、二人で頑張ってるからな」
二人で頑張ってる。
その言葉が、今はしっくりと来る。
「いずれは俺達も、共稼ぎってことですね」
小声で何となく言ってみたら、佐倉が一瞬固まってから目を伏せる。
自分達も給料面ではまだ胸を張って稼いでるとは言えない。
大学出てから社会に出た年数の平均的な収入だろう。
ただ、大きく金を遣うような趣味もないし、家賃や光熱費等を別にして一番遣うのは飯代だ。
節約しようと自炊を目指していたが、それさえもままならない。
その分、無駄遣いする暇もないとも言える。
今日のようにたまに出かけて少し散財するくらいだ。
俯いたまま佐倉の耳が赤い。
「気が早いけど、俺はそのつもりです」
「……おぅ」
*
「ご馳走さまでした」
北見が店を出てからペコリと頭を下げる。
一万円ほどで、男二人で美味い肉と酒で贅沢気分を味わえる。
「来月も来ましょう。次は俺が奢ります」
「オッケー」
ニコニコと上機嫌な北見。
「えらい気に入ったんだな」
「大満足」
「前に言った海老の専門店もあるぞ」
「そこは微妙に行きたくない」
あはは、と佐倉が笑う。
「女々しいこと言うなよ。ただ飯食っただけだろ」
「そこでも口説かれてたくせに」
「…………」
「食べながら思い出したら、ムカつくと思うんで」
こいつ、青木に対しては今も思うところがあるようだ。
まだ時間も早いからバーにでも行こうか誤魔化せば、家で飲もうと北見が言う。
二人でブラブラと歩きながら駅に向かう。
途中で海外の輸入食品の店に入り、チーズとサラミを籠に入れる。
「酒は?」
「焼酎買ってありますよ」
「ワイン飲む?」
佐倉がボトルを眺めて言えば、首を振る。
「ほんと、ワイン好きですよね。でも、すぐ眠たがるからダメ」
はぁ?と呆れ顔をすれば「夕飯ご馳走になったんで、これは俺が」と、さっさとカゴをレジに持って行った。
「……おう」
……今の顔。
ちょっとキた。
友人同士なら酒を飲み明かして、ダラダラ……でいいんだ。
けど俺達は恋人同士で。
やっぱり酒飲んで寝るだけじゃない。
まぁ、昨日したし。
二日連続は、キツいかな。
あいつ、結構しつこいもん。
それに俺、明日は普通に朝から仕事だしな。
けど、ちょっとくらい……。
いや、ちょっとで済むかな……。
グルグルとそんなことを思いながらさっきの北見の顔を思い出し、店の入り口のドアに額をゴンとぶつけた。
「何やってんですか」
後ろから声がして慌てて姿勢を戻す。
「もしかしてもう酔ってる?」
不満そうな北見の顔。
その意味に、またドキッとする。
「いや、大丈夫」
店を出て少し歩くと、スポーツ用品店が見えた。
「ちょっと見ていい?」
「いいですよ」
中に入って、グローブの置いてある場所に行き、手に取って皮の感触を楽しむ。
「グローブも色々と形有るんでしたよね」
「俺は内野手だから、これ。自分の手に馴染むように型をつけていくんだ」
真っ新の硬いグローブが、自分の第二の手となっていくのだと言えば真面目な顔で頷く北見。
「お前も野球やったことあるだろ?」
「そりゃありますけど」
だよな……と佐倉が見本のボールを手に取った。
「あー、ヤりてぇな」
「昨日やってたじゃないですか」
「軟式だったから」
「そんなに変わる?」
「全然違うよ。ボールは飛ばないし、その割に弾むし。音も、重さも違う」
草野球で硬式なんて、あまり無いけど。
「けど、カッコ良かったなぁ」
「言うなって」
全然ダメだった。
年取ったのを実感して、結構本気で凹んだんだ。
考えたら、十代から三十代へと時間は流れているんだから同じように動ける訳がないんだけど。
「会社で昔は草野球のチームあったって聞いたことありますけど」
「そうなんだよ。でも、十年くらい前だ。まー有ったとしても、忙しくて参加できないって」
「今度、キャッチボール付き合いますよ」
北見とキャッチボールか。
頭の中で想像して、つい顔が綻ぶ。
「うん」
北見が俺のしたいことに付き合ってくれる。
そんなことが、一々嬉しい。
「あんまりそーいう顔しないで」
「は?」
「いえ、こっちのこと」
「意味不明」
ボールとグローブを元に戻して、店を出た。
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北見が子供のように喜んで、目をギュッと閉じる。
「そんなに美味いか?」
「いや、もう想像以上」
「どうせろくなもん食ってなかったんだろ」
忙しくなると自炊なんかする気もおきないだろうし、腹を満たすためだめの食事。
コンビニ飯や牛丼や、ラーメン。よくて居酒屋あたり。
俺だって仕事以外のプライベートじゃ、同じだ。
「佐倉さんは、接待で美味いもん食べますもんね」
「まーな」
接待でそれなりの店に行くことはある。
けどさ。
こんな風に好きな相手が喜んでくれたら、美味さは何倍にも感じられる。
お前が食べたいモノなら、どこでも連れて行ってやりたいよ。
「金出したら美味い店なんかいくらでもあるだろうけど、これくらいの値段でこのレベルはそうそうないな」
「月一で来たい」
「そんなに気に入ったか?」
コクコクと頷いて、肉を頬張る。
……可愛いな、こいつ。
佐倉はつい口元がニヤけてしまう。
「幸せです」
「単純だな」
「佐倉さんと一緒だし」
ま~た、そういうことをサラッと……。
「あ、そう」
「冷たい」
あはは、と笑って佐倉も肉を頬張る。
「この赤出汁の味噌汁も、肉に合う」
「うん、美味い」
「肉、追加しようかな」
「足りないか。その体じゃ」
*
あまりに美味くて、北見はカツをもう一枚追加した。
肉のレベルはさすがに最高ランクとは言えないだろうけど、外の衣は薄いのにサクサクで中の肉は半分レア。
柔らかく肉厚で、ソースなどではなくあっさりと塩で食べる。
「そんなにガッつく程、飢えてたのか」
「このところ、生きるためだけに食ってたんで」
なんだそれ、と佐倉が笑う。
「さすがにクタクタで飯作る暇も無いよな」
「ですね。今日はお兄さんの行きつけっていうから、構えてたんですけど」
何をだと問われ、もっと敷居の高い店だと思っていたと答えた。
「兄貴だって、家のローン抱えて子供二人だ。外資でそこそこ給料も良いみたいだけど、財布は義姉さんに握られてる身だ」
「あー、そうか……」
「義姉さんもまだ育児休暇から完全には抜けてないとはいえ、二人で頑張ってるからな」
二人で頑張ってる。
その言葉が、今はしっくりと来る。
「いずれは俺達も、共稼ぎってことですね」
小声で何となく言ってみたら、佐倉が一瞬固まってから目を伏せる。
自分達も給料面ではまだ胸を張って稼いでるとは言えない。
大学出てから社会に出た年数の平均的な収入だろう。
ただ、大きく金を遣うような趣味もないし、家賃や光熱費等を別にして一番遣うのは飯代だ。
節約しようと自炊を目指していたが、それさえもままならない。
その分、無駄遣いする暇もないとも言える。
今日のようにたまに出かけて少し散財するくらいだ。
俯いたまま佐倉の耳が赤い。
「気が早いけど、俺はそのつもりです」
「……おぅ」
*
「ご馳走さまでした」
北見が店を出てからペコリと頭を下げる。
一万円ほどで、男二人で美味い肉と酒で贅沢気分を味わえる。
「来月も来ましょう。次は俺が奢ります」
「オッケー」
ニコニコと上機嫌な北見。
「えらい気に入ったんだな」
「大満足」
「前に言った海老の専門店もあるぞ」
「そこは微妙に行きたくない」
あはは、と佐倉が笑う。
「女々しいこと言うなよ。ただ飯食っただけだろ」
「そこでも口説かれてたくせに」
「…………」
「食べながら思い出したら、ムカつくと思うんで」
こいつ、青木に対しては今も思うところがあるようだ。
まだ時間も早いからバーにでも行こうか誤魔化せば、家で飲もうと北見が言う。
二人でブラブラと歩きながら駅に向かう。
途中で海外の輸入食品の店に入り、チーズとサラミを籠に入れる。
「酒は?」
「焼酎買ってありますよ」
「ワイン飲む?」
佐倉がボトルを眺めて言えば、首を振る。
「ほんと、ワイン好きですよね。でも、すぐ眠たがるからダメ」
はぁ?と呆れ顔をすれば「夕飯ご馳走になったんで、これは俺が」と、さっさとカゴをレジに持って行った。
「……おう」
……今の顔。
ちょっとキた。
友人同士なら酒を飲み明かして、ダラダラ……でいいんだ。
けど俺達は恋人同士で。
やっぱり酒飲んで寝るだけじゃない。
まぁ、昨日したし。
二日連続は、キツいかな。
あいつ、結構しつこいもん。
それに俺、明日は普通に朝から仕事だしな。
けど、ちょっとくらい……。
いや、ちょっとで済むかな……。
グルグルとそんなことを思いながらさっきの北見の顔を思い出し、店の入り口のドアに額をゴンとぶつけた。
「何やってんですか」
後ろから声がして慌てて姿勢を戻す。
「もしかしてもう酔ってる?」
不満そうな北見の顔。
その意味に、またドキッとする。
「いや、大丈夫」
店を出て少し歩くと、スポーツ用品店が見えた。
「ちょっと見ていい?」
「いいですよ」
中に入って、グローブの置いてある場所に行き、手に取って皮の感触を楽しむ。
「グローブも色々と形有るんでしたよね」
「俺は内野手だから、これ。自分の手に馴染むように型をつけていくんだ」
真っ新の硬いグローブが、自分の第二の手となっていくのだと言えば真面目な顔で頷く北見。
「お前も野球やったことあるだろ?」
「そりゃありますけど」
だよな……と佐倉が見本のボールを手に取った。
「あー、ヤりてぇな」
「昨日やってたじゃないですか」
「軟式だったから」
「そんなに変わる?」
「全然違うよ。ボールは飛ばないし、その割に弾むし。音も、重さも違う」
草野球で硬式なんて、あまり無いけど。
「けど、カッコ良かったなぁ」
「言うなって」
全然ダメだった。
年取ったのを実感して、結構本気で凹んだんだ。
考えたら、十代から三十代へと時間は流れているんだから同じように動ける訳がないんだけど。
「会社で昔は草野球のチームあったって聞いたことありますけど」
「そうなんだよ。でも、十年くらい前だ。まー有ったとしても、忙しくて参加できないって」
「今度、キャッチボール付き合いますよ」
北見とキャッチボールか。
頭の中で想像して、つい顔が綻ぶ。
「うん」
北見が俺のしたいことに付き合ってくれる。
そんなことが、一々嬉しい。
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「は?」
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