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「●堂本と拓篤☆番外編」
俺を見ていて

俺を見ていて 29

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棚秦の手紙によると、この本は父の店に来ていた常連の人へ父が貸したものらしい。
息子である俺へ、返して欲しいと依頼されたのだと。

その人の連絡先が最後に書いてあった。

いつか、父のことを聞きたくなった時に……と。



俺の知らない父がそこに居る。



知りたい。



けど、知りたくない。



複雑な感情が、拓篤を纏う。


拓篤は文庫本を手に取る。

中を開いてみようと思って、まだ仕事中だということに気付いた。
それ以上に、今は気持ちが乱れている。

帰ってからにしよう。

拓篤は新刊と文庫本の二冊をカバンにしまってパッキンを開け、和紙やラッピング用のセロファンを取り出して行った。

*

仕事を終えて、家に帰ってから食事の支度をしようとキッチンに立つ。

でも……。

ずっと、あの本が気になって仕方がない。

拓篤はソファーに座り、鞄から新刊の方をまず取り出した。

中を開けて見ると、ズラズラと旧華族の名前が載っている。

目次を見ると、十一項目あった。


まず、華族の特権項目。
それぞれの意味を、分かり易く書いてある。

華族制度が廃止されるまでの流れを書いてあるから、今まで知らなかった人でも読める。

財産を有している者はごく一部で、ほとんどは苦しい中で今も誇りを守っていること。
いや、その誇りが全てと言っても過言ではない特殊なる世界だということ。

血はいつか途絶える。
それは誰の上にも等しい。

だが、そんな当たり前の理屈を彼らに諭しても、意味を成さない。

幼少時より「○○家の者」というのが刷り込まれ、全ては「対面」を保つために生きる人々。
既に存在しない制度で、誰もが華族なんて言葉に首を傾げる時代。
あまりにも庶民感情とかけ離れた生き方に理解者などいないであろうし、滑稽に感じる人がほとんどであっても。
守ることに生涯を注ぐ、といっても大げさではない人達。

棚秦はどちらにも偏らず、褒めるでも、称えるでも、小ばかにするでもなく、中間の位置に徹して書いていた。

二章目からは各華族の名前で、十章まで続く。

多治見家は一番最後に載っていたから、他の章を飛ばして少しだけ読んでみようと思った。

公家の時代から、帝との繋がり。
栄華を極めた時代などは、拓篤にとっては身近なモノではない。

自分も知らないことがたくさん書いてあって、その血が自分の中に流れているのだと感じた。

思えば華族としての教育を正しく受けたのは、父の代までだろう。
祖父の代にはまだ使用人もそれなりに居て、人の出入りも激しかったようだから。
専属の家庭教師もいて、音楽を嗜んでいた頃の父の写真を見たことがある。

時々、父がバイオリンを弾き、母がピアノ……。
食事の後、家族でそうやって過ごした日もあった。

自分が物心つく頃には、既に朽ち果てる寸前だったのだ。

夜になると多治見の亡霊たちが現れたあの日々が、拓篤の脳裏に甦る。
祖父が亡くなった時、父はどれほどそれを感じたのだろう。

最後に生きている父を見たのは、邸を眺めている姿だった。

父は、俺の何倍もの重みを背負っていたのだ。
自分が何百年も続いてきた家督を潰すことへの重責は、俺の比じゃない。

あの頃の俺は全部、父が悪いのだと……そう思って、歩み寄ることもしなかった。





父のことが書いてあるページは、読まずに閉じた。

いや、読めなかった。

今の自分には、まだ無理だ。


……父をまだ許せていないからだろうか。


拓篤は脱力してソファーにもたれかかり、背に頭を乗せて天井を仰ぎ、目を閉じる。

時代の変化と共に、静かに朽ちて行ったそれぞれの先祖達を思いながら。



そしてガバッと起き上がり、父の持っていたという文庫本を手に取った。

表紙にはカバーがかけてあり、大切に扱っていたのが伺える。

そのカバーを外し、拓篤はそのタイトルをジッと見る。


――「おちこぼれ」


父が手に取ったのは、このタイトルに惹かれたのだろうか……。


拓篤はパラパラとページを捲り、一番くたびれたページの詩に目を走らせる。






― 自分の感受性くらい ―


ぱさぱさに乾いてゆく心を
ひとのせいにはするな
みずから水やりを怠っておいて




気難しくなってきたのを
友人のせいにはするな
しなやかさを失ったのはどちらなのか




苛立つのを
近親のせいにはするな
なにもかも下手だったのはわたくし





初心消えかかるのを
暮らしのせいにはするな
そもそもが ひよわな志にすぎなかった





駄目なことの一切を
時代のせいにはするな
わずかに光る尊厳の放棄





自分の感受性くらい
自分で守れ
ばかものよ





著者:茨木のり子「自分の感受性くらい」より






父は何度も何度も読んだのだろう。


そこにある詩が、自分そのものだと思い……。


―― ばかものよ

……と。



父は確かに間違った。
それを正すこともせず、逃げた。
思い重責に耐えきれずに。

何とか多治見を立て直そうと、必死で足掻いてみても……結果は、借金となった。

先祖からの宝で借金を帳消しに出来ると踏んでいたとしても。
それを見届けるのがどうしても嫌で、逃げた。

弱くて、愚かな「ばかもの」なのだろう。

胸を張って、立派な父だったとは言えない。

でも、俺にとっては……父は父だ。

格好悪くても、弱くても、愚かでも。

この世にたった一人の、父親だ。




それでも、やはりまだ許せない。



拓篤は涙でボヤけた目で、また詩を辿る。



繰り返し読んだ父を倣うように。



玄関の扉が開いても、その文字を辿った。






「拓篤」

隣に堂本が座り、頭ごと抱えられる。


「ご飯……作ってない」
「いいよ」

鼻を啜りながら、堂本にもたれ掛る。


「父様の、形見。……今日、店に届いた」


堂本は「そうか」と呟いただけで、拓篤の頭を撫でる。


「俺……やっぱり、まだ許せない」
「そんなに簡単に許しちゃ、お父さんの方が拍子抜けだ」
「うん……」
「親が子を置いて出る苦しみを、そんな簡単に理解するもんじゃない。きっと、お前の想像よりもずっと重いはずだ」

そんなのは当事者にしか分かるはずがないのだと囁かれた。

「背負ったまま、その重みを毎日のように受け止めながら生き続けようとしたんだろう」

堂本が拓篤に小さく囁く。



「お父さんは許しなんか請うてない。俺は、そう思う」


そのまま拓篤が落ち着くまで、ただ黙って寄り添い、温もりだけを与えた。


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茨木のり子『自分の感受性くらい』
有名な女流詩人さんです。私はこの記事を書く前に偶然知ったのですが、既にご存知の方も多いでしょう。
全文を載せましたが、著作権の侵害に当たるかと思いますので、後で一部を残して削除します。
有名な詩ですので、検索したら出てきます(*^^*)
※実際の「おちこぼれ」は、文庫ではありません。
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