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「● 信史と秋也☆番外編」
You are my angel

You are my angel 2

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スタジオのある階のいつもの部屋に秋也が入って行く。

「はよー」
「おはよ」

既に直樹が来ていて、コンビニで買ってきたサンドイッチを食べていた。

「お前も食う? 買いすぎた」
「いらない。もう食ってきたもんね」
「あ、そう」

ギターをケースから出して弾いていると、直樹が口をモゴモゴさせながら合わせて指でテーブルを叩く。

「あ、食ったな」

秋也がニッとして直樹に言えば、同じくニッと笑う。

食うと言ってもサンドイッチのことではなく、リズムのことだ。

「そ、ここっ」

二人で音を合わせていると、陸朗が入って来た。

「おい、本録り前に飾るなよ」
「わかってる」

陸朗もベースを取り出して、三人で雑談しながら話していると勇次が入って来た。

おはようの挨拶をかわして勇次が紙をテーブルに広げ、陸朗と共にペンでチェックを入れて行く。

「変更?」

直樹が覗き込むと、勇次が首を振る。

「Aメロのチェックだ。昨日あれから、タミさんと落としやってて」
「アタマだけ?」
「いや、ケツも。直樹、お前アフタービートのタイミングもっとためて」
「オッケー」

四人でテーブルを囲んで頭を突き合わせて、勇次からの細かな指示を受ける。

「今回、詩先だったからな」

陸朗がボソッと言えば、勇次が頷いた。

勇次は曲先で作って行くタイプだが、今回のように既にストーリーが出来上がっているモノには詩を先に作ることもある。

「ここのブリッジで……あぁ、健太郎はボイスか」

健太郎は明日からの参加だ。

勇次が時計を見たタイミングで、ミキサーの北見が入って来た。

「勇次。b70から180への流れな……」

昨日録ったテストの音で、既に始まっているのだ。
いつもなら終わってから入るのだが、今回は早目に入ってもらうようにした。

「行きます」
「ヨウさんが、もうすぐ来る」

ヨウとは、北見の上のベテランミキサーだ。

勇次が立ち上がって、北見と共に部屋を出て行った。

「お前ら、スタジオ入って。ガイドでさっきのコード、チェックする」

行ったと思った勇次が戻って来て、顔だけを出して告げられた。

今回はシンセにボイス被せ等、エンタメ性が前面にでる曲だ。

必ずヒットすると言われている中での微調整。

もちろん、いつだって手を抜くなんてことはしない。

ただ、世界観が出来上がっている物に沿うこと。
既に熱烈なファンが居る世界を壊さないようにすること。

その上で、自分達の色も出さないといけないのだ。

「行くぞ」

陸朗の声で、直樹が慌ててパンを口に放り込む。


「健太郎、ボイトレ中」
「喉、かっ開いて来るな」
「負けらんねぇ」

三人でブツブツ言いながらスタジオに向かう。

「燃える」

秋也が呟けば、二人がくっと笑う。

「俺も」
「同じく」



―― 秋也は思い出す。

健太郎自体が楽器。

リーダーが初顔合わせの時に言った言葉の意味を、その歌声を聴いて思い知った。


自分達が毎日毎日、寝る時以外は一日中楽器に触れてきたことが、あの歌声の前に圧倒されて一瞬で霞んだ。

プロへなるための壁を必死でよじ登っていたつもりなのに、一気に地面に叩き落とされたのだ。


あの敗北感は三人の中では忘れようがない。

健太郎の声を、自分達の音で支えるという現実。

生まれながらにして与えられたモノ。
血の滲むような努力をしなくても、難なく出る声。

そこに努力というモノが加われば更に進化し、俺達は置いて行かれる。

勇次と健太郎という、普通から抜き出た二人に追いつかなければという焦り。


……このままじゃ、俺達はただの添え物。


三人で同じ思いを共有した瞬間だった。

抜き出た才能を持った二人の横で、ボーッと霞んでなどいられようか。


自分の元から消えた男を思い、喪失感に苛まれた日々は……あの歌声で、アッパーを喰らった。

センチメンタルに浸っている場合じゃない。
俺には、そんなことをしている暇などない。


置いて行かれるなんて、絶対に……嫌だ。


陸朗も直樹も、同じ思いだったはず。


だからこそ、今この場所に五人で居ることが出来る。



……あれから、もう十年近くが経とうとしている。





「十分後、始めまーす」

録音のナカさんの声が聞こえ、それぞれに手を上げる。


「ガイ録り終わったら、ドラトラ入るぞ」


スタジオに入ってきた勇次からの指示が入り、それぞれに調整を始めた。

まずガイド録り(全員での演奏)、その後格パーツに分けて別録りに入る。

ベースとドラムが同時でギターは別録りが基本だが、その時の状況で変更もある。

*

直樹と陸朗が録りをしている間、秋也が部屋に戻るとサブマネの川原が弁当を持ってきていた。

「あ、お疲れさまです」
「お疲れさま~。今日は弁当?」
「スポンサーからです」
「どうりで豪華だ」
「力つけてもらわないと」
「俺、先食っとこ」

秋也が早速弁当の蓋を開けて食べ始めると川原の携帯が鳴り、手を上げて部屋を出て行った。

一人になった秋也も、食べる手を止めて携帯を取り出す。

毎日……とは言えないが、時間の合間にこうして電話をかける。

「あ、ばーちゃん? 俺。何もない?」
「ないよ、大丈夫」
「今、レコーディングの合間なんだ」
「ちゃんとご飯食べてる?」
「今、弁当食ってるとこ」
「ちゃんとお食べよ」

いつもと変わりない会話。

「近い内、行っていい?」
「いいよ、おいで」
「俺、白菜煮たの食いたい。あと……イカと大根のも!」
「いつも、煮物ばっかりだねぇ」

祖母がクスクスと笑う。

「他でも食べるけどさ、ばーちゃんの味とは違う」
「そうかい」

嬉しそうな声に、秋也の顔もほころぶ。

ほんの数分の雑談。

「じゃ、何かあったら絶対電話してよ?」
「分かってる、分かってる。ばーちゃんは元気。何かあったら絶対に無理しないって約束したろ?」
「うん」
「信ちゃんに防犯のもしてもらってるんだから」

正確には信史じゃなくて、セキュリティーの会社なんだけど。
祖母は、中学から知っている信史への信頼度が高い。

「じゃ、お仕事頑張りなさい」
「はーい」

祖母と話すといつも子供に戻ってしまう自分を感じながらも、温かい気持ちになって電話を切った。


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