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恋のカタマリ

恋のカタマリ-166

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明日、日本に帰るという夜。

拓篤は恭二の握った寿司を食べに行き、そして店の閉店を待ってバーに来た。

「パリでの最後の夜に、乾杯」
二人でグラスを上げて、ワインを口に含んだ。

「お先に」
「うん。俺もその内に帰る」
「オーナー次第だもんな」

恭二が肩を竦めて笑う。

「桜が見たいとか言って、もうとっくに散ってるけど?」

オランダから戻ってから、スクールに日本人のグループが短期で受講に来て、しばらくその手伝いを頼まれた。
おかげで予定より随分と遅れたが、今の日本の様子を聞けて楽しかった。

「いいんだよ。来年、見れば」

そう……来年の春に、また桜は咲く。
その次の年も、毎年咲き続けて春の訪れを目で楽しませてくれる。


「日本に帰ったら、一番に会いに行く?」

その問いに拓篤は首を振った。

「一番に会いに行くのは……父を殺した男」

恭二の目が、驚きの色に変化した。
そういう顔をするのは、分かってたよ。

「裁判にも行けなかった。だから俺、週刊誌やテレビでしかその男を知らない」
「やめろよ」

恭二の眉がしかめられ、咎めるような口調になった。

「今更会ってどうすんだよ。そんな……人を殺すような男に。それも、自分の親だろ?」

だから行くんだ。

「もう、向こうの弁護士には面会できるように手配してもらったから」
「なんで……。もう、充分だろ?あんなに叩かれて」

少し怒ったように言う恭二の手に、拓篤がそっと触れてポンポンと軽く叩く。

「それとこれは別」
大丈夫だという意思を示す。

答えが欲しい訳じゃないんだ。
その男に会ったからってそんな簡単に、答えが導き出されるとは思ってない。

「また傷つくぞ」
「いい」

二人で睨み合うように、少しの沈黙が流れる。

「……ごめん。余計な口出しして。俺、兄貴に遺族の悲しみの話聞いたことあるのに」
恭二が目を逸らし、呟いた。

「特別な理由なんか、ないんだよ。でも、そうしなきゃいけないような気がして」
「ケジメか?」
「さぁ……。ただ、会ってみようと思ったから」

恭二が首を傾げる。
いいんだ……。分かってもらおうとは思ってない。
親が殺されるなんてこと、味わうモノじゃない。

「俺は、父のことを憎むことで、母や妹を守ってる気になってた。でもある日突然、父が死んだ現実。そこからだ、俺の軸が何処にあるのか分からなくなった」

拓篤が静かに告げる言葉を、恭二が黙って聞く。

まだ祖父が生きていた幼い頃。
父に何かあったら、母と妹を守るのがお前の役目だと言われたこと。

拓篤は恭二に、幼い頃の祖父との約束を語る。

「俺は、何も守れなかった。邸も、家宝も、母や妹も。それは他人が違うって言っても、何の慰めにもならない」

父が居なくなった瞬間から、俺は多治見の当主になったのだ。

そこで言葉を切った拓篤に、恭二が首を振る。

「同じかどうか分からないけどさ。父の友人で、大きな旧家の跡継ぎ。自分の代で潰して、父と酒を飲みながら泣いてた。俺、まだガキでさ……トイレに立った時に、たまたま見て。大人の男の人が声を押し殺して泣いてたことに、ビックリした」

「守るのが使命だと教えられてきた人間にとっては、生まれて来た意味を否定するくらいのことなんだよ」

大袈裟だと思われるだろう。
だから、理解など求めたりはしない。

けど、そうやって守るモノを背負って生まれて来る人が今の時代にも居る。
きっと、これからの未来も。

その宿命を受け止めるか、否か。
人によって違うにしても、魂に刻み込まれたモノは自分の根だ。
覆すのは、並大抵じゃないと思う。

「何か大きな罪を犯したような気持ちになるんだ」
「……重いな」
「重いよ。日本に帰りたいのに、やっぱり怖い」

日本に帰ると決めてから、ずっと父のことばかりを思い出すのは……あの重みが、また来ると思うからか。




「恭二は、父親が嫌い?」

拓篤が突然話題を変えて問いかければ、目を剥いてしばらく黙る。



「……その質問、難しい」
「俺は、憎んでたけど。……嫌いにはなれなかった」

恭二が拓篤を見て、はぁ……とため息を吐いた。

「明日帰るって言うのに、俺の親の話してどうすんだ」
「だから言うんだよ」
「何で……」

「後悔してるから」

拓篤の言葉に、恭二が不意をつかれたような顔をした。

「余計なお世話だって分かってるし。俺は、お節介するタイプでもない」
「うん……」
「でも、これから先……和解出来るチャンスがあったなら、歩み寄ってみることも考えて。それも選択の一つだよ」

恭二が唇を前歯で噛んで、俯く。

一体どれだけの確執があったのか、俺は知らない。

けど、人はいつか死ぬのだということ。
それも、突然の別れがあるということも。

「後悔……か」

恭二が小さく囁くように言った。

「俺は、この後悔も背負って生きる」

拓篤のキッパリした言葉に、恭二が目を合わせて頷いた。


そう……ずっと、胸にある思いは、口惜しさ。
広島から戻ってきてから、止まって動かない。

悲しいと思うより、そればかりだ。

憎んで、怒って、八つ当たりのように喧嘩なんかしてる暇があったら、必死で探せばよかった。
どこで何してるんだって思いながら、怒ってるだけで何もしなかった。

もし見つけることが出来なくても、何もしないよりは気持ちが違ってたはずだ。

……時間はあったのに。
そういう場所に調査を頼めば、見つかった可能性は高い。

意地を張ってたんだ。

そして、永遠に会えなくなった。

俺が探していれば……父は、殺されずに済んだんじゃないかと思う気持ち。

この後悔だけは、一生消えない。

これも背負って生きるのだと、思った。

もう、目を逸らさない。
拗ねたりもしない。

父がもうこの世に居ない現実を、ちゃんと心に落とす。

そして父から引き継いだ多治見を背負い、未来を生きる。

この命が朽ち果てるまで、俺は多治見拓篤なのだ。


「有難う、拓篤」

恭二が優しい顔でそう言った。

「日本に帰ったら、花を買いに行くよ」
「恋人が出来たら、花束贈ってやって」

「……最後まで、キツいな」

苦笑いをしながらも、優しい顔のままで言ってくれた。



「頑張って、恭二」

手を差し出して、握手を求める。

今日で、最後の夜。

もし、心に誰もいなければ……そう思える男との別れ。


「頑張れ、拓篤」

恭二が手を握り、互いに頷く。


――これは友情。

いつかまた、日本で再会する時があれば……互いに今よりもステップアップを願う相手。



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~ Comment ~

やっと日本に帰る日が目の前だってのに一番に親父を殺した犯人に会いに行くって!!そう来ましたか!
まだまだ焦らしプレイが続くんですね。
拓篤くんが犯人と会って、なにかまた一歩踏み出せるといいな。犯人に会ったってイヤな思いするに決まってるけど、会いに行くことで拓篤の中で抱えてることの1つでも軽くなるなら。
拓篤はフランスでの2年間で背負ってるものを自分なりに受け入れられた。自分のアイデンティティーがどこにあるのか見つけられたはず。
絶対に幸せをつかんで欲しい!だから焦らしプレイも甘んじて受け止めます(^^)v

NoTitle

拓篤が素直に語ってる!そんな姿が見られるなんて~。(ノ∇・、)クスン
いい友人が出来たね、拓っくん。
恭二は諦めつつ、納得しつつ、そして内心舌打ちしてそう(笑
友人でいようと決めたのかな。
拓篤の心にはちゃんと堂本が居るんだから、どうしようもないよね。

ああ、言われてみれば。
父親の突然の死を、拓篤は少しずつ実感してましたね。
一人で居るときに恨みごと言ったり、堂本に抱っこで運ばれた時も幼い頃を思い出してたり。
そういうことの繰り返しで父の死を少しずつ受け入れて来たんだろうか。
騒動も重なったから、余計に一人で耐えることが苦しかったのかな。
家名の重圧、分かりません…。

拓篤の言う通りだ恭二君!キミが一人前の板前になってからじゃ遅いかもしれん。
日本へ帰ったら、父親とバトルじゃー!ヽ(`▽´ )ノ キャハー←煽ってるし
孝行したい時に親は無し、これは悲しいよね。うん。


~本日の『流涎の館』会報
●バナナですから!>http://jppejeje.tumblr.com/post/117255312280
●畝いろいろ
美畝?>http://u111u.info/kjGL
登りたい…>http://speedoaddicted.tumblr.com/post/103210439152
そして浩太は…>http://gaymadridboy.tumblr.com/post/108425184222
コレくらいかなと想像してみた。
●チョイ悪兄ちゃん>http://u111u.info/kjya


では、明日~┏○))ペコ

Re: タイトルなし

おみち様

焦らしプレイ(笑)

いえ、私は物凄く大事だと思って書いてる部分…なので。
本気で、一切焦らしてる自覚無し←どうしようもないw

拓篤にとっては、ある意味恋愛以上に心にずっとあったことなので。
全てを無しには出来ないけれど、心に折り合いをつけたいんでしょう。

明良の時もそうでしたけど、何にでもタイミングってあるじゃないですか。
今、この時じゃないと、動けない…的な。
帰国する弾みで勢いがついてる「今」こそ。後回しにしていたら、またいつまでも…だしね。
でも、そう何話も書いてませんよ~(*゚ー゚*)対面自体は短いっw

有難う御座いました☆

やっと

帰ってくるんですね。
自分の中のしこりを先に取り除いてからの、堂本との再会ですね。

成長してますね。向き合い方が前向き!!
そうできるだけの2年だったんですね。
色んなキャラがいますが、皆成長しながら前進していくところが大好きです♪

明日も楽しみにしています!

Re: NoTitle

トーヤ様

恭二と過ごすようになって、笑ったりし始めたことから色々と心が動き出して。
そして暴かれたことから、堂本への想いがぶり返した。

もうね、堂本には「会いに行く」って決めてるんですから!
そこはもう、放っといても会いにいくでしょう。
会いに行くのが「いつ」なのかは、自分で心に従うってことも決めてるし。

それよりも帰国目前にして、やっぱり怯む気持ちは出てくるよね…。
心が一番底辺に居たまま飛び出したんだし。
父を失ったまま、止まったままの針を、無理くそでも動かしたいんだよね。

心に落ちてないまま、そこだけが浮遊してる。
日本で仕事を始めたら、また先延ばしのまんまなことも分かってるから。

恭二の父との確執が、背景は全然違うけど重ねてみたり。
まぁ、ここも恭二が決めることだし!
いつか拓篤の言った言葉を思い出す瞬間があるかもしれませんね~。

>そして浩太は…
ほんと、こんな感じかな?青年になってきて、体つきも変化してきてる(//∇//)
まだ腕立てとか腹筋してるのかな…。内野さんに、自慢してるかもしんない(笑

有難う御座いました☆

Re: やっと

ふらわー様

多治見の重みの一番の理解者である父。

拓篤は登場した時から、ずーーーーっと「父」の影を追っています。

それをこのタイミングで少し…昇華させてあげたい。
もちろん、完全には無理ですけどね。

18歳の時から、25歳の今。
7年の月日で、父への想いも随分と変わりました。

堂本に会いに行くことはもう決定してますので(*^^*)
その前に、少しだけ寄り道させてやって下さい。

少しでもスッキリした顔で、会いに行けるといいですね~。

有難う御座いました☆

大人になったねー

日本でのあの辛かった日々を思えば恨みもあるでしょうけど、多治見の当主になったことで解る父親のこともあったでしょうし、向き合うにはいい時期なのかもですね。

もし、その犯人と対峙して傷つたら堂本さんに癒してもらいましょう(´・ω・`)

餌を目の前にした犬のように涎たらしながら二人の再会まで「待て!」してます(笑)

Re: 大人になったねー

ちぃこ様

明良は、亨と別れる時に。
ホップ・ステップ・ジャンプで弾みをつけた。

拓篤は、堂本の元へ行く前に…。
恭二との件でついた弾みが、次のステップへ進んでますね。

何かを決める時って、勢いが必要な時がある。
冷静に何でも決めて、ズンズン突き進める強さなんていつも持っていられないし。

さて、ジャンプ!!で、堂本さんに会いに行けますように~♥
皆さん、待ってくれてるよー拓篤!

有難う御座いました☆

NoTitle

いったんお別れなんですね、オトナになって初めて出来たお友だち、恭二と。

話をするようになって感じた、お互いのこと。
似たような境遇、目標、未来。 負けたくないライバルで、切磋琢磨しあえるだろう、同士。

よかったなあ、と思います。
日本で再会するのが楽しみな二人♫ その為にも恭二、ちゃんとお店だしてネッ!
開店祝いは拓篤のお花。 もちろん腐女も花になってお店を飾りに~~。
え? イヤ?

さあ、前進あるのみ、の帰国です。
あー、プライベートジェット持ってれば、お見送りして、即行日本へ帰ってお出迎えするのに・・。

Re: NoTitle

ますみ様

はい。ここでお別れ。
再会するかどうかも分からないんだけど…。

恋人だったら。
普通に友人だったら。

再会の約束はしたでしょうけども。
この2人はその狭間に居たので、それはしなかった。
友情の握手をして、一旦はお別れです。

互いに良い意味で、忘れない存在になっただろうしね。

>プライベートジェット←BLだったら、出しても良さそうな…ww

有難う御座いました☆

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Re: Fate- Destiny-Timing

鍵コメSH様

ぎゃー。3歩進んで2歩下がり読み←w
粗が無いかと焦る書き手ですが、嬉しくもあり♪
変なとこ見つけたらこっそり(オィ

人生って、タイミングがいくつも重なってる…で、今があるような。

拓篤が堂本と出会ってなかったら。あるいは恭二と…。
あんな濃い~男と出会ってしまったら、もうどうしようもないんだよ…恭二くん。w

>仔猫さんは、Fate(宿命)を背負って生まれ落ち、Destiny(運命)でライオンさんと出逢い、Timingが満ちて故郷へ戻っていく✈…!

おぉ…上手い!

高野豆腐も、美味い。←

浅読みも、深読みも、どっちもcome on!です(*゚ー゚*)

有難う御座いました☆
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