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恋のカタマリ

~序章~

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***この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません***



~序章~

明治維新以後。
公家が廃止され、華族制度に移行すると共に「華族」として一括りにされた多治見家。
時代により、大名・藩主・領主……呼び名は様々でも、多治見は幕府より朝廷寄りであった。
皇族婚嫁の相手方になれる位にいて、平安時代には朝廷より輿入れもあった。

――最終的な位は、公家華族

公・侯・伯・子・男と言われる五爵では公に次いでの侯。
当然、貴族院議員の資格も有していた。

十五銀行の破綻、華族制度の廃止。
GHQによる反日政策華族対象財産税で、財産の90%が没収され……。
時代の流れに沿うように、何度も打撃を打ち込まれながら、守って来た家督。

しかし、世は平成……。

過去の栄華を残すモノは、もう屋敷と僅かに残った土地。
そして、先祖から伝わる家宝の数々。

多治見の現在の当主、多治見昌朝はまだ幼い孫の手を引いて、長い廊下を歩く。

没落しながらも、細々と守ってきたモノが朽ちて行く末路を、この目で見届けることは出来ない。

小さな手を握り、己が伝えるべきことがたくさんあっても、まだあまりにも……幼い。
これから先、、更に時代の波に飲み込まれて行くであろうことへの確かなる予感を抱えて。

息子がしっかりしていれば……。
その思いは、我が身の不甲斐なさへと繋がって行く。

年を取ってやっと生まれた一人息子は幼少のころ体が弱く、命を落としかけたことがある。
病弱さを不憫に思う心と、その奥にあるお家断絶を恐れ……周りがあまりにも甘やかせすぎた。
それは己自身もだ。
成人してから何度も何度も言い聞かせて来たが、時既に遅かりし。

――何が、お家断絶だというのだ。

そんなモノよりも、不徳の息子に委ねなければならない孫達の未来。
嫁いできた嫁も、多治見と同じ位につく令嬢で頼りにならない。
その生家も、同じく没落寸前。
子を二人生んでも、母というよりは……まだどこか姫様のままだ。
外の世界では、とても生きていけるとは思えない。

最も大事なのは、強く逞しく生き延びて行くこと。

家督などより、大事なことがあったのに……と。
余命いくばかの身で嘆いた処で、今となっては何もかもが後の祭りだ。


平成の世に、今も名残を残すその部屋の前に立つ。

昌朝がロックを解除してから鍵を差し込み、ガチャリと回して扉が開くまでの間。
孫の拓篤の目が、キラキラと期待に満ちているのが見えて微笑む。

生憎……息子は一切美術品には興味が無かったが、孫の拓篤は殊の外好きなようだ。
昌朝は、そのことがとても嬉しかった。


この家宝をいずれ手離す日が来る。
せめて、その道だけはつけておこう。




拓篤は祖父と一緒に、この部屋に入るのが好きだ。
今日も屋敷の離れの一室にある、先祖から受け継がれたモノや、祖父の趣味で集めたモノの中で一緒に眺める。

一人では当然、入らせてもらえない。
入れるのは、祖父が一緒の時だけ。


祖父がお気に入りのヴラマンクの絵の前で二人で並ぶ。

「これも……いつか、手放さないといけないだろうな」
「どうして?」

拓篤の問いに、祖父は悲しそうな顔をした。

それ以上、聞いてはいけない気がして、拓篤は口を噤む。

沈黙が流れる中、祖父が膝をつき拓篤と目線を合わせた。

頭にポンと手をおかれ、目の前の祖父を見る。

「拓篤。多治見の家はな、とても古く……由緒ある血筋なんだ」

特別自慢するようでもなく、教えるかのように祖父が拓篤と目線を合わせたまま言う。

「お前の中には神道から続く血が流れている。外の世界でたくさん辛いことがあっても、それだけは忘れずに誇りを持ってほしい」
「誇り?」
「そうだ。それは、何も偉ぶることじゃない。自分の中に大切にしまっておくものだ」

誇り……その言葉は、時々耳にする。

「けれど、それを外で口にしてはいけない。外の世界では、時代錯誤だと笑われる」

時代錯誤……。
幼くても、その意味を少しは感じる場所で拓篤は育った。

拓篤自身、笑われたことがあるのだ。
挨拶の仕方一つ、外と家の中では違う。

「僕、笑われたことある」
「笑いたい人は、笑えばいいのだよ」
「はい」
「どれだけ笑われても、私達の中にはある。大切なのは、そこだ」
「お祖父様にも、あるの?」

拓篤の問いに祖父が笑って頷いた。

「お前はいずれ、多治見の当主となる。父様の次はお前だ」
「当主って、何をするの?」
「多治見の家を守ること。母様と妹を守ることだよ」

僕が……お祖父様のように?
まだ小学生にも満たない拓篤には、自分にそんなことが出来るのかと思う気持ち。

だが祖父の言葉はこの家では絶対であり、幼くても聞き流せない。

「わかりました」
「約束してくれるか?」
「はい」

拓篤が答えると、祖父は優しい目をしてくれた。

「でも、いつか……ダメになってしまうこともある。その時は、潔く手放しなさい。みっともなく、しがみつくのではない」

ちゃんとした意味が分からなくて、拓篤は首を傾げる。

「それも、誇りだ」

立ち上がり、拓篤を見おろして祖父が言った。

「はい」
拓篤は、頷いて祖父を見上げる。

「たくさんの家が途絶えてきた。……それも運命」

祖父が拓篤の手を引き、歩きながら、また一つ一つの美術品を愛でるように眺める。
拓篤も祖父の真似をして、目の前の美しい日本画を一緒に眺める。


「一番大切なのは、生き続けることだ」

祖父が拓篤を見て、その髪を優しく撫でた。



誇り、運命……。


その言葉の意味がまだよく理解出来ない、拓篤が五歳の秋のことだった。




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