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kiriの【R18】BL小説置き場

愛と、エロと、心理描写重視の大人BL。基本、ハピエン。男同士の性描写を含む恋愛話ですので、18才未満(高校生含)は、閲覧しないようにお願いします!尚、趣味の個人ブログですので、誹謗・中傷はお断り。こちらで判断次第削除します。

欲しかった言葉 14(終)

欲しかった言葉

明良の視線が逸れて、また戻って洋平を見つめる。

「……お前は、嫌じゃないの?」
「嫌じゃないよ」
「お前は俺のために子供諦めたのに、俺だけが父親になるってことなんだぞ」

やっぱり、そこか。
俺が自分と生きることで手放したモノに対する負い目は、俺が何を言おうと拭えるモノじゃないのも分かってる。

「明良さんだけズルイ、って俺が思うって?」
「俺だったら、思うかもしれない」

何だか子供のような言い方だけど、単刀直入に言えばそういうことなんだろう。

「だって、俺がお前の子供を持つっていう未来を奪ったのに」

そのことは既に折り合いがついていたはずなのに、今回のことで変にぶり返したってことだな。

……いや、違うか。
きっと、俺と居る限りは消えない。

「俺がお前を誘惑して始まったんだし」

あー、もう。
罪悪感からネガティブ思考にハマってる。

どうしてくれようか……。
子供の話をするにしても、まずはこのカチカチになってしまった罪悪感のしこりを少しでも柔らかくしないと、スタートラインに立てない。



洋平は暫く考えて、まずは俺たちの始まりに戻ることにした。

「こっち来て」

洋平が明良の手を取り、ソファーまで引っ張って並んで座る。

「明良さんの子供なら、俺も父親でしょ」
「そう思ってくれるの?」
「当たり前でしょ」

それでも不安そうな表情は拭えない。

「よく聞いて? 明良さんは高校生の時に俺を誘惑して、そこから始まったと思ってるんだろうけど」

明良の視線が逸れる。
好きでもなんでもない後輩の俺を、気まぐれに誘ってこっちの道に引きずり込んだ。と、ずっとそう思ってる。

「そうだよ。俺が気紛れを起こさなければ、今頃お前は嫁さんと子供が居る暮らしをしてる」
「そうかもしれないね」

間髪入れずに応えれば、明良がグッと黙った。
自分が言い出したくせに傷ついたような顔をする。

「でも。もし過去に戻れても、俺はまた明良さんの後ろを追いかけるよ」

俺はあんたと出会ったのは、運命だったと思ってるんだよ。

出会うべくして、出会ったと。
あんたがどう思ってようが、俺は本当にそう思ってるんだ。

あの頃、明良さんと鹿島さんの愛憎に、一番年下の俺はガキ扱いで……。
大人になってしまえば、たった一年や二年だと思えるけど、あの頃はその差が大きく見えた。
鹿島さんに「お前には手に負えない」と忠告を受けた時の口惜しさだって、昨日のことのように覚えてるよ。

「そしてまた鹿島さんに、ウザがられるんだ」
洋平がボソッと呟くと、明良がやっと小さく笑う。

「バカだな、お前」
「自分でも散々思った」

「……俺も、自分のことバカだって思ってた」

思い出しているのだろう、明良が微笑んだままで呟く。

「明良さんが俺を誘惑して始まった。それは確かに間違ってるとは言えないけどね。でも、違う」
「……意味わかんない」

洋平は当時を思い出しながら、明良の顔を見つめる。

「俺が明良さんに強く惹かれたのは、泣いてたから」

俺があんたを強く意識するようになったのは、部室のベンチで泣き腫らした目を見てからなんだよ。


え……という顔をする明良の手をギュッと握る。

「その瞬間、心臓を撃ち抜かれたんだ」

何言ってんだ……という顔をする明良だが、本人が覚えていなくても仕方ない。

綺麗な先輩から気になる人へと変化していた頃に、泣きはらした顔で部室に座り込んでいた顔。
あの弱っている姿を見た時に、ノックダウンを喰らった。

その後、鹿島さんの存在を知った。
この人を悲しませ、泣かせている存在を。

もう手遅れだった。
この人の悲しそうな顔を見る度に、心はどうしようもなくざわめくようになってしまっていたんだから。

誰かを好きになるということの愚かさ、切なさ、悲しみ、寂しさ。
それと同時に、突き動かされるどうしようもない衝動。
それが自分自身にも降りかかった。

「俺は明良さんに、笑っていてほしいんだ」

洋平が心を込めてそう告げると、明良の俯いたままの目が瞬く。

……俺は忘れない。
一度は手に入ったと思った人が、この腕の中をすり抜けて行ったあの日を。

あの別れの日、玄関であんたがくれた優しいキスを。
「男で…ごめんな」 と、唇を震わせながら言った時のことを。
笑って欲しいと思って追いかけていたのに、最後は諦めを滲ませた悲しい顔。
俺は、何も分かっていないガキだったんだ。

もう二度と、あんな顔はさせない。

「それが俺の幸せ」

思春期の刷り込み、なのかもしれない。

けど、笑っている顔を見ると、俺の心が満たされるのは本当なんだよ。
誰だって大切な存在が笑っている姿を見れば、同じだと思う。
男でも、女でも。大人でも子供でも。

「俺が悲しそうな顔してたら、どう思う?」
「……嫌だ」
「笑ってたら、明良さんも嬉しい?」
「嬉しい」
「喧嘩したりもするけど、二人で笑えるって幸せだと思わない?」
「……っ思う」

明良の力強い返事に、洋平はニッコリと微笑む。


「俺のコンテストが終わったら、日本に帰ろう」

コクンと頷く明良の手をギュッと握りしめた。

「子供のことは簡単に決められないことだし、何度だって話そう」
「うん」

明良も繋いだ手を強く握り返し、こっちを見た。
もう、さっきまでのグズグズした顔は戻っていた。


「コンテスト、頑張れよ」
「あぁ、絶対頑張る」
「俺も、動揺してる場合じゃないか……。仕事、頑張らないと」

仕事のことで、明良の目に力が宿るのを見えた。

「そう。先のことはどれだけ考えても分からないんだ。だから、今やるべきことをやろう」
「うん……。まずはやるべきこと、だな」

そう言って、明良が洋平に軽くチュッと音をたててキスをした。

「愛してるよ、洋平」

そう言ってハグをされた。

「俺を愛してくれて、ありがとう。お前と一緒に暮らして、俺は幸せだよ」

耳元で囁く愛情のこもった言葉に、洋平は嬉しくて両腕で抱き返す。

「お前は温かな愛情を俺にくれる。俺はその中で、毎日ヌクヌクしてるんだ」

クスクスと笑い、今度は頬にキスを落としてくる。

「俺が幼い頃から一番欲しかったモノを、お前は気負わずに自然と与えてくれてる」

嬉しくて、洋平は腕の力を強める。


「俺……お前に出会えて、良かった」


洋平はその明良の言葉に、不覚にも泣きそうになった自分に驚く。

多分……俺が、欲しかった言葉だ。
至極単純で、この世にありふれた言葉。


追いかけて、ウザがられ、それでも追いかけて。
手に入ったと思って有頂天になって、すり抜けて、失ってしまった。

そしてまた、追いかけた。
好きで、好きで、どうしようもなく好きで。
ただ笑ってくれるだけで、俺に幸せを感じさせてくれる人。



ヤバイ……泣きそう。

「俺……多分、その言葉が欲しかったんだ。今、そう思った」

鼻をすすって言えば、明良が体を少し離して顔を近づけてくる。

「俺は、本当にそう思ってる」
「……嬉しい」
「泣くな、バカ」

頭をヨシヨシと撫でられて、やっぱり年上なんだな……なんて思って、この際甘える。

「クゥーン」
「尻尾、振りすぎ」

二人でブッと吹き出して、またキスをした。


(終)

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欲しかった言葉 13

欲しかった言葉

洋平が帰ると、リビングの電気が消えている。
明良は集中すると部屋にこもってしまうから、深く考えずに仕事部屋のドアをノックした。

「明良さん。ただいま~」

声をかけたが返事がない。

あー……かなり集中してるな。
こういう時は、何も食べてないんだよ。
何か食べさせないと。
それかデスクで突っ伏して、寝落ちてるかな?

「開けるよ」

ドアを開けると、明良は椅子に座ったままボーっとしていた。

「遅くなって、ごめん。お腹すいたでしょ。…………明良さん?」

声をかけても返事がないから、座ったまま寝てるのかと傍に行った。
斜め上から覗き込むと目は開いたままだが、これもたまにはある。
頭の中でイメージに入り込む時などの、ちょっとしたトランス状態。

でも、様子がおかしい……。
洋平は思いつめたような表情に心配になり、床に膝をついて椅子を回転させ目線を合わせた。

「明良さん。ただいま」

驚かせないように、意識して優しく声をかけた。

「……洋平」

視線が合い、名前を呼ばれたと思ったら、首に両手を巻き付けしがみついてきた。

「どした?」
「胸が痛いんだ」

え??
洋平の方が驚いて、しがみつく腕を引きはがして顔をのぞき込む。

「痛いって、どんな風に? 病院行こう!!」

椅子に座る明良を抱き上げようとするが、抵抗される。

「明良さん!! ちょっと!!」
「違う!! 病気じゃない」
「胸が痛いって、何なんだよ??」

つい大きな声を上げてしまったが、明良はぶら下がったまま何かを呟く。

「え? 何て? 聞こえない」

洋平は明良を椅子に戻し、もう一度膝をついて顔を覗き込んだ。

「……子供」

子供?
全然、意味が分からない。

洋平が眉をしかめ、目線が泳ぐ明良の顎を掴み、正面を向かせた。

「明良さん。ちゃんと言って」

今度こそしっかりと目が合って、明良の目が瞬く。

「え……っと。母さんと電話して、その後で諏訪さんから電話があって」
「うん」
「……子供が欲しいって」
「……え?」

洋平が大きく首を傾げると、明良が大きくため息を吐いた。

「ごめん。お前にどう言おうか考えてて。それに、俺自身迷って……。なんかゴチャゴチャ考えて。……結局、こんな。訳分かんないよな」

ブツブツと戸惑いながら言う表情に、洋平はフッと肩の力を抜いた。
体の方は大丈夫ってことだな。

「明良さんが、物凄く動揺してるってのは分かった」

明良が喉を鳴らし、口を開けて……また閉じる。

あぁ、本当に頭の中が整理つかないんだ。
珍しい……。

それほどのことと「子供」と「諏訪」の名前と、俺に気を遣っている。

何となくピンと来た。

「明良さん。ご飯食べた?」

首をフルフルと振る明良の脇に手を入れて立たせ、手を繋いでリビングに連れていく。

「何も食べてないんでしょ?」
「うん」

椅子に座らせてから冷蔵庫を見ると、昼に食べるように置いていったフォカッチャが手つかずのままだ。

「店から明良さんの好きなエビのパスタソースとリボリータ持って帰ってきたよ。大事な話みたいだけど、まずは腹ごしらえしよう」
「……うん」
「慌てなくていいよ。ちゃんと聞くから」

コクンと頷く明良にニッコリ微笑んで見せると、こわばっていた顔が少し和んだ。



食事をしながら、明良の話を聞く。
さっきまでの動揺も、話すことで整理が付いたのか少しずつ落ち着いてきたようだ。

「胸痛いの治った?」
「うん……」

洋平が食器をシンクに持って行ってから、濃いめのコーヒーを淹れた。
カップを明良の前に置くと、こっちを見上げる。

「洋平は、どう思う?」

不安そうに訊いてくる。

「明良さん」

椅子に座ってから改めて目をしっかりと見つめて名前を呼べば、首を少し傾げて聞く体制だ。

「本当のこというと、それ考えたことあったんだ」

明良の眉がしかめられる。

「養子とか?」
「うん、それも考えたことあったけど」

イタリアは養子制度が盛んで、店にも人種間を超えた親子連れが来る。
そういう姿を見れば、想像くらいはする。

でもいずれ日本に帰ることが前提だから、話をしたことはなかった。
日本は子供の問題には、閉鎖的な国だ。
養子だと聞いただけで、気の毒がる。

「明良さんは、無かった?」
「無いよ」

即答で返ってきた。

「お前、子供欲しかったのかよ」

あ、勘違いしてる。

「違うよ」

洋平が首を振る。

「明良さんって、子供が好きでしょ? 甥っ子の動画なんか、何回見てんのって感じだし。小さい子には、スッゲ―優しい顔してて。俺にもして!! って思うもん」

現に店の仲間のフィリッポの五才の息子は、明良が大好きだ。
チロの三歳の娘は、明良の膝の上に乗って降りない。

この人が父親になれる可能性があるのなら……と、それを見るたびに思った。
子供が居ることが幸せだとは限らない。
居なくても幸せな人はたくさんいるのだ。

けど、この人は家族という絆の羨望が何よりも強い。

「自分の子供なんて、考えたこともない」
「でも、話を貰って迷ってるんだよね」

その問いに、明良はぐっと言葉が詰まる。

迷ってることで、答えは出てる。
でも、そんなに簡単なことじゃないことを、グルグルと考えてたんだろう。
何を考えていたのかくらい、俺にだってわかる。

足元にあるマイナスな部分を覗き見た瞬間、下から這い上がって巻き付いてくるんだ。
目に見えない不安という感情がとぐろを巻いて、囚われてしまう。

洋平は椅子から立ち上がり、明良の傍に行って椅子ごと自分の方を向かせて跪く。
何かを言い聞かせる時の、いつもの習慣だ。

「何?」

戸惑う明良の両手を取り、軽くその手にキスを落とす。

「俺は、可能性があるのなら明良さんの子供欲しいよ」
「可能性……」
「そう。不可能が可能になったんだ」

明良の目がジッと見つめてくる。
本心かどうかを探ってるんだろう。

明良さん。
俺は、あんたに嘘なんかつかないよ。

あんたは諦めることに慣れて、手を伸ばすことを躊躇う。
負い目を孕んだまま、誰かを傷つけるんじゃないかと恐れて、伸ばしかけた手を引っ込めてしまう。

その手を伸ばせないなら、俺が引っ張ってあげるよ。
手を繋いで、一緒に考えよう。

今よりも、もっと……もっともっと、心から幸せに笑うあんたを見たい。
それがどんな形でも、あんたの望む幸せを叶えてあげたい。


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欲しかった言葉 12

欲しかった言葉

母との通話を切り、あまりの衝撃に明良は呆然としたままだった。

どれくらいそうしていたのか、パソコンからのコールでハッとする。
画面を見ると、諏訪だった。

心臓が本当に痛くなって、思わず胸を押さえる。
喉をゴクリと慣らす音が耳に響き、深呼吸をしてから通話ボタンを押した。

「はい」
『諏訪です。お時間よろしいでしょうか?』
「えぇ」
『社長からお聞きになったと』

諏訪は、いつものように冷静だ。

「えぇ……でも、すぐにはお返事できません」
『もちろんです。問題は山積みですし、何よりも子供自身の人生を考えなければなりませんから』

諏訪のことだ。
ただ子供が欲しいというだけでなく、考えに考え抜いて話を持ち出した。

『実は私たちもこの二年、考えてきたことなんです。都(ミヤコ)は、ずっと子供のことを言い続けています」

二年も前から?
……そうか。女性は命を生み出すことのできる性だ。
男の俺は可能性「0」で、最初から諦めていたし、考えたことも無かった。

『産むのは、都ですから』
「……そうですか。意志は硬いんですね?」

子供が欲しいと思うのは人の本能として自然なことだ。

『えぇ……諦めることは、無いでしょう。都自身、仕事もセーブできるように少しずつ準備を進めてきましたから』

静かな諏訪の言い方に、彼女たちの強い意志が伝わってくる。

『都は既に病院でも相談をしていて……精子バンクをご存知でしょうか?』
「はい……」
『はじめはそこを紹介されました』

それは、俺が断れば「他を探す」ということだ。
……当然だろうと思う。

『でも都は、どこの誰か分からない人より、あなたに父親になって欲しいという強い希望です』

父親……。
その言葉に、明良の心が跳ねる。

『私たちは、病院だけじゃなく本も手あたり次第に読み、セミナーやシンポジウムにも参加してきました。リスクも充分に承知の上で、社長に相談させて頂いたんです』

リスクが伴うことくらいは、想像出来る。
きっと俺が思うよりも、ずっと。
それでもあえて、欲しいという強い希望……。

諏訪のパートナーの都さんとは、何度か顔は合わせている。
母と四人で食事もしたし、洋平と一緒に自宅へ招かれたこともある。
明るくて朗らかな人という印象だ。

あの人が、俺の子供を?

もちろん、セックスなどできない。
お互いに同性愛者だというだけじゃなく、大切なパートナーがいるんだ。

都さんには諏訪が。
俺には、洋平が。

……洋平。

洋平は、どう思う?
明良にとっては、一番気がかりなことだ。

『洋平さんの考えもあると思います』

諏訪が明良の思っていたことを、先に言った。

「洋平を傷つけることだけは、絶対にしたくないんです」
『えぇ、私も同感です』

小さく微笑み、諏訪が言った。

これは、お願い……ではない。
対等なのだ。

お互いに望めない子供という存在。
諏訪の言うように、たくさんの問題がある。だが、腹を括れば手を伸ばせる……可能性。

『四人の考えが合致しないと、進めません』
「えぇ」
『出来るなら、私は四人で親になりたい。家族になりたいんです』

諏訪が優しい顔で、でも力強くそう言った。

あぁ……俺は、この人のこういうところが好きだ。
では、俺も考えよう。
洋平と一緒に。


「わかりました。洋平と相談して、また連絡します」
『本来なら、明良さんと洋平さん二人ご一緒に面と向かってお話したかったんですが。もちろん、都も』

母がはっきりと帰国の日を決めない俺に痺れを切らしたってことか……。

母さんにとっても、諦めていた孫だ。
浮足立ってしまうのを責められない。

「母が先走ってしまったのも、俺がしつこく訊いたからで……」
『いえ、子供を産むとなれば、更に準備期間が要ります。そして、私たち女にはタイムリミットがありますので』

そうだよな……。
いつまでもグズグズと考えるような時間はない。
出来るだけ若い内に決断をして、準備を進めなければならない。

俺たちの答えがどっちに転んでも、彼女たちは歩み始める気なんだから。

『洋平さんのお時間のある時に、連絡頂けますか? 私の方からも、直接お話をしたいので』
「わかりました」
『できれば、お二人で都と話をしてもらえたら』
「えぇ、もちろん」

そこで諏訪が、フッと力の抜けた笑いを零した。

『なんだか緊張して。仕事の話みたいな言い方になってしまいました』
「僕は心臓が痛いですよ」

二人でまた小さく笑った。

*

電話を切ってから、明良は考える。

子供……。
考えたことも無かった。
いや……もしかしたら、考えないようにしてきたのかもしれない。

正確に言えば、学生時代に一度だけ考えたことがある。
でもそれは自分の子供ではなく、亨の子供だ。
亨を繋ぎとめるために子宮が欲しいなんて、今思えば本当に神への冒涜のようなことを考えた。

俺自身は、最初から望めないことだとして自分の中ではとっくに整理が出来ていた。

ただ、洋平や母への申し訳なさだけは消えない。
それだけは永遠に消えないだろう。
これは人としての本能だ。



亨の娘を見た時に……。
そしてこの腕に抱いた時の、あの言いようのない切なさが明良の脳裏に蘇る。

亨の手を離すには、充分すぎる理由であるべき存在。
亨が、無償の愛を注げる存在。

亨に似た眼差しが、心から愛おしいと思えた。
別れることが正しいことなのだと、自分自身の中にストンと落ちた瞬間だ。


俺は、あの子に救われた。


それと同時に、俺は確かに亨に嫉妬を覚えた。

俺には望めない存在を、亨が手にしていることへの羨望。
そして俺と居ることを選んだことで、洋平は手に出来ないという事実。

とっくに整理がついていたのに……。
薄れていたはずの感情が、再び明良の思考に流れてくる。

本能に従えば、欲しいと思う。
可能性があるのなら、手を伸ばしたいとも。

でも。
俺は陰に隠れた存在として、産まれてきた。
愛人の子として。

父が会いに来てくれるのを、ただジッと待つだけの子供だった。
会いに来てくれても、違う家に帰る父の後ろ姿を追った。

普通の家には父という存在が毎日帰ってくるのだと知った時、母を困らせた記憶がある。

どうして一緒に居られないのだと、母を責めた。

もし子供が産まれたら……。
自分と同じ気持ちを味合わせることになるんじゃないのか?

遺伝子上での父親と母親は生活を共にしていない。
その上、それぞれに同性のパートナーがいて、普通の家とは大きく違う。

普通じゃない家庭環境に、子供はどう思うんだろう。
周りから何かを言われたら、傷つくことになる。

子供は残酷だ。
それは俺自身が身を持ってしっている。

明良の脳裏に、幼い頃の記憶が浮かぶ。

……やっぱり、無理だ。

でも……。
都さんは、諦めないと言った。

じゃ、他の……。
その子供を見て、俺はどう思う?

洋平は、どう思うんだろうか。
今更、子供の話を持ち出して、この温かな暮らしに溝が出来てしまったら……。

洋平を失うなんてこと、考えただけで背筋が冷える。

いや、洋平はそんな軟な男じゃない。
でも……。

明良は悶々と、考え続ける。
だが、いくら考えても同じところを堂々巡りだ。


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欲しかった言葉 11

欲しかった言葉

明良はスクールから戻って、すぐにパソコンの電源を入れた。
自分のペースで出来るが、時間をかければ良い物が出来るわけでもない。
要はどれだけ集中しているか、だ。

だからデザインに入る前はスクールに行ったり、ナディアや他の友人とお茶をしたり美術館に行ったりと、心の余暇を大切にしている。

パソコンが立ち上がりメールのチェックをしてから、キッチンに戻りコーヒーを淹れる。

洋平に買ってもらったミルが、明良の今のお気に入りだ。
豆を挽き、その香ばしい香りに癒されながら、コーヒーの滴がポタポタと落ちる様を眺めて。


洋平もコンテストに集中しているようだ。
毎日早朝から店に出ているし、家でもノートにペンを走らせながら考え込んでいる。
休日もろくに取らず、テーブルで転寝している時だってある。

体を壊すんじゃないかとも思うが、顔色は悪くないし、目が漲っている。

だから、やりたいようにやればいい。
思う存分、後悔しないように。

ぶっ倒れても、俺が傍にいる。

俺も頑張るよ。
お前に負けないように。

淹れたてのコーヒーの香りを嗅いでカップになみなみと注ぎ、仕事部屋に戻った。



まずはオーダーのリストを眺め、顧客の予算とイメージカラーの「ブルー・グリーン」という文字に目を止める。
次にパソコンに向き直り、母から送られてきた石の画像の中からミントトルマリンを選ぶことにした。
グリーンが少しかかったミントブルーの煌めきに、瑞々しい清潔感が際立つ。

オーダーは、再来月に三十歳の誕生日を迎える妻へ、旦那様からの贈り物だ。

贈る人と贈られる人が、互いに幸せに微笑むことが出来るように……。

明良はフッと口元を綻ばせ、スケッチブックと鉛筆を取り出した。

*

一気に数種類を描き上げ、大きく息を吐いて伸びをしながら窓を見ると、すっかり夜になっていた。
時計を確認してから洋平がまだ帰っていないことに気づき、スマホを手に取るとメッセージが来ていた。

――ガスパロと打ち合わせしてから帰ります。夕食は持って帰るから、待ってて。
三十分前だから、まだ打ち合わせ中だろう。

――オッケー。こっちの仕事は一段落した。待ってる。

メッセージを送り返してから描いた絵をスキャンして、母と諏訪のアドレスに送り、洋平が帰る前に先にお風呂に入ろうとバスルームに向かった。




バスタオルで髪を拭きながらリビングに戻るが、洋平はまだのようだ。
パソコンをチェックすると、母からもう返信が来ていた。

――今、見たわ。時間あるなら、直接連絡下さい。

パソコンからコールすると、すぐに母が出る。

「どう?」
『うん。いいじゃない。随分と調子上がったようね』
「水埜さんと会って、色々と刺激受けたよ」
『花の世界を覗いて?』
「それは大きい。まぁ、年も同じだからかな、余計に負けられないなと思って」
『マイペースで周りなんかどこ吹く風のあなたが、珍しい』

そういう母の顔は嬉しそうだ。

『水埜さんも、あなたに刺激を受けたって矢倉さんに連絡あったみたいよ』
「そっか」

それなら嬉しい。

「明日から制作の方に取り掛かるよ」
『新作もよ。あなたの新作を楽しみにしてる方多いんだから、お願いね』
「了解」

そう答えて通話を切ろうかと思ったら、母の表情がまだ何か言い足りないようだ。

「どうしたの? 他に何かある?」
『あなた、いつこっちに帰国するか決めてる?』
「ハッキリとした日にちは決まってない。でも、そろそろだとは思ってる」

そう……と、何かを考える仕草。

「何? 急ぐことなら、今言ってよ」
『……急ぐってわけじゃないんだけど』
「もー、何なんだよ。勿体ぶられると気になる」

明良が少し憤慨するように言えば、母が苦笑いだ。
そういえば、この間もちょっと思わせぶりだったように感じたことを思い出した。

何なんだ?
母はわりと何でもハッキリ言う方なのに。

「思わせぶりみたいなのはやめて」
『そんなつもりじゃないのよ』
「じゃ、いま別に時間ない訳じゃないし、言ってよ」

本気で母の目を見つめると、母はふぅ……と息を吐いた。


『……そうね。帰国してからでいいかとも思ったんだけど。諏訪さんの方がね』

諏訪さん?
仕事のやり取りは普段からしているのに。

「え? まさか辞めるとか言ってる?」

それは困る。
諏訪の存在のおかげで、俺はデザインに没頭できている。
その仕事ぶりは母が見込んで引き抜いただけのことはあり、数字には驚くほど強くシビアだし、何よりも石を見極める力もある。

残念ながら、息子の俺には無い経営力と鑑定力いう能力を持っているのだ。

むかし母が言ったように、お互いにストレートなら結婚でもして店を守る……という可能性もあったかもしれない、なんて思うほどには必要な人だ。

『違う、違う』

母が首を振るから、じゃ何だと問えば視線を斜めう上にあげて口を噤む。

「何だよ? その顔」
『もー、怒らないでよ。じゃ……言うけど』

さっきから勿体ぶって何なんだと眉をしかめると、母が息を吸う音が聞こえた。

『明良。よく聞いてね』

諏訪さんが辞めることより、重要なこと?


もしかして、母が病気?

言葉を溜める母の口から何が飛び出してくるのか、怖くなってきた。

「もー、怖いよ」

気になるから聞きたいのに、聞きたくないような……。



『あなた、子供欲しくない?』



だが、母の口から出てきたのは、全く予想もつかない言葉だった。


「え……?」

固まった明良の表情に、母が呆れたように眉をしかめる。

『だから、子供よ』


…………は?
子供?

なんで、子供?

……跡継ぎ?

でも、店は諏訪さんが経営を続けて行くことになってるはずだし、俺はデザイナーとしてこれからも……。

明良はグルグルと思考を巡らせる。


「あ……養子?」


『いいえ。あなたの血を受け継ぐ、実の子供』




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欲しかった言葉 10

欲しかった言葉

明良が自室で仕事中、洋平もリビングでレシピを絞り込む。

うーん……。
ペンを走らせながらも、手で額を覆って考え込む。
レシピに問題があるという訳じゃなく、どこか、何か、……ピンと来ない。

明良さんもよく煮詰まっているが、今の俺がそうだよな。
でも水埜さんとの出会いで大きく刺激を受けた様子で、集中して仕事をやっている。

刺激、か……。
コンテストの出場へのやる気は漲ってる。
連日、そのことに集中もしているし、レシピもかなりまとまってはきた。

これが終わったら、日本に帰る。
土産を手にして帰りたいという、自分への課題。
それが自分自身へのプレッシャーになってるのは、分かってるんだ。

ふぅ……。



洋平の脳裏に、ふと友人の顔が浮かんだ。

時間を確認して、明良と二人で共有の小型のパソコンの電源を入れた。
メールでは時々やり取りはしているが、直に話をしたい。



――今、時間あるなら、話し相手になってくれ。

少ししてOKの返事があったから、そのままコールすればすんなりと相手が出た。

「久しぶり」
『おー、久しぶり』

相手は学生時代の友人で、同じ料理人の一色だ。
共通の先輩と、同じ店で修行をしたということで、今も時々連絡を取り合う。

「今、時間いい?」
『いいよ。今日は土曜だから、クマの部屋にいるけどな』

クマ?
あぁ……久坂さんか。

『ちょうど仕事も一段落したし。どした?』
「あー。今度、例のコンテストに出るんだけどさ」

そこまで話した途端、一色が大きな声を上げる。

『え? 選出された?』
「うん」
『マジで?? スゲー!! やったな、篠原!!』

自分のことのように喜んでくれるのは、一色もガスパロの元で同じように働いていた経験があり、どんなコンテストかを知っているからだ。

画面の一色は、満面の笑みだ。
こいつのこういうとこが、いいんだよな。
喜怒哀楽の良い部分が、表に真っ直ぐに出てくる。

「ありがとう」

つい苦笑いで返してしまった。

『あ? ……その顔は、煮詰まってんな』
「そーだよ」
『で、俺?』
「ちょっと違う空気ってのも欲しくて、お前の顔が浮かんだ」

一色が、了解とばかりに何度か頷く。
レシピはそのシェフの独自のモノだから、それについての話じゃない。

『まぁ、あれだ。同じ日本人の感性に触れたくなった、と』
「そのとおり!」

そう、それだ。
洋平は嬉しくなった。

そこからはまず料理の話は後にして、お互いの近況報告。
こうやって直に話をするのは久しぶりだ。
大学時代の話にも飛び、くだらないことで笑って懐かしんで。

そしてやっぱり料理の話へ。
たまに日本人受けするような新しい料理のレシピをメールして、それを一色がアレンジして学生たちに食べさせて大喜びしてくれていることも。

『学生たちには、お前のこと言ってんだ。日本に帰ってきたら、こっちに顔出せよ』
「じゃ、二人で何か作るか?」
『おー、いいね。……あ、帰ってきた』

一色がちょっと待ってと手で制した。

おかえり、と声が聞こえるところを見ると久坂さんだろう……と思っていると、いきなり画面に本人が現れた。

「わ……っ、お久しぶりです」
『久しぶり』

愛想笑いもなくぶっきらぼうだが、これが久坂さんだ。
相変わらず、いい男っぷりだ。

『おい、ちょっとくらいニッコリしてみろよ』
『うるせーな。いきなり挨拶しろとか言うからだろ』
『それにしたって、無表情はないだろ』

画面から消えて、何やら喧嘩をしている。

いや……喧嘩というか、じゃれ合ってる?
洋平は耳に入ってくる会話を聞いていると、可笑しくて面白くて声に出して笑った。

……が、中々画面に現れない。

「おーい、俺を忘れてないか?」

そう問いかけたが、返事がない。

ま、いいか。
待ってたら、戻ってくるだろう。



……遅い。

ガタゴトと音だけが、聞こえてくる。



『すまん。檻に入れてきた』

暫くして、突然息を切らした一色が現れた。

「檻?」
『風呂だ。道場で竹刀振ってきたらしくて、汗流しに行かせた』

檻、という言葉がツボに入って、洋平はゲラゲラと笑う。

ひとしきり笑うと、すっかり肩の力が抜けた。

「一色、サンキュー。もう大丈夫だ」
『笑っただけじゃん』
「いやいや、笑いのパワーは凄いわ」

友人は、いい。
学生時代の友人は、何の肩書も必要無いから余計だ。

『イタリアじゃ日本人ってこと背負ってやってるとこあるから、知らない間に変な力みが入る時あるよな』
「あぁ」

そうだ。
何だかんだといっても、厨房の中は戦いの場。
色んな人種がそれぞれに、イタリアの地で自国の誇りを持って仕事をしている。

こうやって同じ年で、同じ場所で働いた経験があって、同じ料理人で、同じ言語を話す。
共通項がいくつか重なってるだけで、力みが抜ける。

『明良さんの前じゃ、いいカッコ見せたいんだろうしな』
「そりゃそうだよ」
『ま、男なんてみんなそうだ』

普通に男女であれ、グダグダと嫁に愚痴って弱みを曝け出す男なんていないと、一色が言う。

うん。
明良さんだって、普段は我儘言うし甘えてもくるけど、仕事でどれだけ煮詰まっても俺に弱味は見せない。

けれど、お互いに分かるんだよな。
理由はどうであれ、何かあった時には傍にいてくれる存在。
そのことが、一緒に生きていく中の軸の部分だ。

「一色、有難うな。力みがいい感じで抜けたわ。結果は知らせる」
『待ってるよ』

短い挨拶を交わして、回線を切った。


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